読んで♪観て♪公開中の映画を中心に 映画とその原作本の感想を書きます。 北海道で医大に通う田中(三浦春馬)は、ボランティア活動を通じて体が不自由な鹿野(大泉洋)と出会う。鹿野は病院を出てボランティアを募り、両親の助けも借りて一風変わった自立生活をスタートさせる。ある日、新人ボランティアの美咲(高畑充希)に恋をした鹿野は、ラブレターの代筆を田中に頼む。ところが美咲は田中の恋人だった。 (シネマ・トゥデイ） 鹿野靖明という実在の筋ジス患者の実話の映画化で、ストーリー自体はかなり「映画オリジナル」なのでとりあえず、映画の方のストーリーを・・・・ 美咲は、ＢＦの医大生の田中くんがボランティアを理由にあんまりデートをしてくれないのでそのボランティア先に乗り込むことにします。そこには大勢のボランティアに世話をしてもらう、王様のような筋ジス患者の鹿野がいました。田中くんがこのわがままな障碍者にこき使われていることを知って、とりあえず、疑いは晴れたものの、自分よりボラを優先するのには少々お怒りの美咲。 鹿野は首から上と指がわすかに動くだけの重症患者で、生きるためには24時間の介護が必要なのですが病院を飛び出し、自らボランティアを募って、自立生活をしているのです。20歳までしか生きられないと言われてきたのに、今34歳で、口だけはだれよりも元気です。 その夜の泊りのボラの都合が悪くなり、田中くんがその代役を承諾してしまったために、なりゆきで一緒に停まることになった美咲。夜中2時過ぎまで話やゲームにつき合わされた上に、突然「バナナが食べたい」「バナナ食べなきゃ寝られない」といいだし、（田中くんが外出したらこのオジサンとふたりきりになってしまうので）私が買いに行く！と夜中のまちに飛び出すのですが、どのお店も閉まっていて、全く見つからず。若い娘がバナナ探して寒い夜中に歩き回るのって、まるで「森は生きている」にでてくる、雪の森でイチゴを探す娘ですよね～ そして、帰ってきた美咲は、鹿野の目の前のオセロ盤の上にバナナを投げつけると「おお、なんか今グッと来た！」ここは予告編でおなじみのシーンです。 以来、美咲は鹿野にすっかり気に入られて、ひげ剃りとか、体に触れる作業は、いつも美咲をご指名。何をやってくれても褒めてくれるんですが、彼女の目的は「北大医学部の学生で、田中記念病院のおぼちゃま」の田中くんと結婚することで、ボラはしかたなくやっていること。タイコ（体位交換）のやり方とかベテランボラがどんどん教えてくれて、そのうち田中くん抜きでシフトに入れられてしまいそうな予感も・・・ だいたい、ボラたちを無償で当然のようにこき使う鹿野の態度が全く気に入らず、美咲はついにブチ切れます。 その夜、泊り担当の田中くんに代筆させてお詫びとデートの誘いの手紙を書く鹿野。「自分の彼女を差し出すのもボランティアなの？！」と怒りますが、デートといっても、他のメンバーも一緒に外で焼肉を食べるだけなので、美咲も同行することに。そこで鹿野の車いすを押しているときに、鹿野のお腹の調子が悪くなり、急に「トイレに行きたい」「間に合わない！」と。せっかくめかしこんできたのに、派手に漏らして、上下よれよれの普段着に着替えさせられて落ち込む鹿野。それをみて「ウンチなんて誰でも漏らすよ。私だって大学入試の時、漏らしたままで試験受けてた」と、今回ばかりは、美咲が鹿野を励まします。 実は、美咲にも秘密にしていることがあって・・・・それは、田中くんと知り合った合コンのときは、教育学部の学生と名乗っていたのですが、本当はバイトといっていたケーキ屋の店員だったのです。美咲を両親に会わせようとしていた田中くんはこれを聞いてショックを受けます。親にも説明できないし、玉の輿狙いで近づいてきたのかという不信感も・・・ 「先生になって子どもたちを教えたいと思ったことは本当」なんて理屈が通用するはずもなく、冷戦状態に。鹿野に相談すると「これからでも夢をかなえればいいじゃない！本当に先生になっちゃえ！」と。 鹿野自身も、バリアフリーなんて意識のなかった時代に、筋ジス患者の自立を訴えたエディ・ロング氏に会うためにアメリカに行きたい！と、そのために、英検2級を取るべく勉強しているのですから、説得力あります。 「好きになってほしいためのうそなんでしょ？」「オレなんか毎日嘘だらけ。 大袈裟に痛がったり、寂しそうにしたり」 実の母親をいつもじゃけんにする嘘も、美咲に見破られていました。 やがて、鹿野の病状は進み、拡張型心筋症と診断され、自発呼吸も難しい状態になります。気管を切開して呼吸器をとりつけると、言葉を失うことになり、また痰の吸引は医療行為なので素人のボラには無理で入院が必須といわれてしまいます。言葉だけが生きる手段ですからこれは受け入れられず、かといって鼻マスクも上手く行かず、なんと鹿野は、自分で空気の量を調整することで声を出すことに成功して、「気管切開は延命のための最終処置で、しゃべることなど無理」という常識もあっさり覆してしまうのです。そして、痰吸引のハードルもクリアして、退院まで実現してしまいますが、ボランティアたちの仕事はさらに増え、それでも辞める人がいれば入ってくる人がいたりで、なんとか「鹿野ボラ」たちは結束して鹿野を支えていくのです。 7年後、牧場へ往診にいく医師となった田中くんの姿。そして、美咲はその妻となって、小学校で子どもたちを教えています。「雲の上から面倒な人が見張っていますから」 2002年、42歳で鹿野靖明は亡くなりますが、彼を支えたボランティアは500人以上。でもそのひとりひとりが、鹿野から何らかの影響を受け、彼のおかげで人生を取り戻した人もいた・・・・ 映画の方は、鹿野から患者と向き合うことを教えられ、親の経営する大病院でなく地域医療を選んだ田中、そして、大学受験からスタートして教師の夢をかなえた美咲、そして二人の結婚、という絵にかいたようなハッピーエンドで終わりますが、原作は、鹿野ボラたちがの書いてきた８０冊もの「介助ノート」をもとに書かれたもので、もっと生々しいから、どこまで踏み込んで映画にするかは、悩ましいところだったと思います。 子どもだったり、すっかり年取った老人ならともかく、「しゃべることしかできないわがままなおじさん」が介護対象で、優しい女性ボラをみると、口説いてきたりするんだから、若い女性はもちろん、おばさんでもちょっときついぞ～と思ってしまいます。 映画では、最初、「なにさま？」といっていた美咲が、ボランティアを続けるうちに、次第に鹿野の魅力が分かってくる様子を描いていますがもちろん彼女も田中くんも実在はしません。 「バナナのエピソード」も、実際は、入院中の夜間の付き添いで簡易ベッドに寝ていると夜中に鈴で起こされ、「お腹すいた、バナナ食べさせて」といわれ、眠さをこらえてやっと食べさせ終えてベッドにもぐりこむと「もう１本」といわれ、びっくりしたものの、不思議なことに、怒りは急速に冷えていった・・・・・というのが実際のエピソードです。すごく共感はできるけれど、ちょっと映像映えはしないかも。 この映画を観て「筋ジス患者の鹿野がかわいそう！」とか、「希望を捨てずにエライ！」とか、私はそういう感想は持たなかったんですが、そもそも「難病ジャンル」の映画としては、作ってないのでは？いつもわがままで偉そうな鹿野をみていると、「障碍者がそんなにえらいのか！」「こっちの都合も考えろ！」と思ってしまうのが正常な反応。正当な対価が払われることもない無償ボランティアだったらなおさらです。 ただ、自分の介護をボランティアに託すというのは、かなり危険を伴うことで、「鹿野さんのわがままは命がけ」というのも納得です。「まったく身体が動かなくて、すべてを他人の介護に頼る」ということは、２４時間プライバシーがないわけで生きるためには、、恥ずかしいこともカッコ悪いことも、すべて他人（それも家族とかではなく、不特定多数の他人）にさらさなくてはいけない・・・・私だったらとても耐えがたいことです。それだけの覚悟がないと、こういうことはできないですよね。 ところで、「ボランティア」は「無償で自発的に社会活動をすること」なんですけど、日本では当初、「奉仕活動」とか「慈善活動」とか訳されることが多くて「余裕のある奇特な人のする善行」みたいなニュアンスがありました。今でこそ、だれでも参加できるものになりましたが、それで単位がもらえたり、入試に有利だったり、なにがしかのメリットが加算されたり、学校がボランティアを「強制」したり、もうすでに「ボランティア」でなくなったりしてますね。 私も、一応「ボランティア活動」を１０年以上やっていますけど、「鹿野ボラ」は絶対に無理！でも、ともかく「自分のできることを出来る範囲で手助けする」ことを誰もが一度は経験したらいいと思っています。 ただ、ボランティアで処理できるものは「やってくれたら助かる」程度のもので、人の命がかかってることを託すのはだめでしょう！鹿野の介護には専門スタッフや有償ボランティアも多くかかわっているはずなんですけど、そのへんが映画ではあんまり説明されなかったのは、ちょっと残念でした。お金が絡まない分、スキルも熱量もばらばらな無償ボランティアの扱いは難しいものですよね。 結局、ボランティアのことをずっと考え続ける２時間でした。脚色もたしかに多かったけれど、大泉洋のとぼけたキャラで、この手の映画には禁断の下ネタ（というかエロネタ）も嫌味なく笑いを交えながらも鹿野の思いがちゃんと伝わって、観てる人の意識を多少なりとも動かす映画だったと思います。
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